はじまり


青年は流れる景色を見ようと少し後を振り向いた。
昼下がりの冬の太陽が、視野いっぱいに広がる田園風景を見つめる青年に降り注ぐ。
少しまぶしくて目を細めた。

車両に人の姿は、一人、二人、青年を入れて三人。
「ここら辺ではこんなものなのかな」
他人に聞こえないようそっと息を吐く。

青年が今まで育ってきたのは東京で、人が三人しか乗っていない車両になど乗り合わせたことがなかった。

青年は前に向き直ると車両におちている光を見つめた。

ゆるやかに小さな埃が光に照らされてきらきらと舞っている。
「なんで電車は走ってるのに車両にある埃はあんなに優雅に舞ってるんだろう」
なんだったかな、相対性理論とかだっけ、と考える。

そうして、ふと、急に何かを思い出した青年は、表情を一気に硬くさせ、その額に影を落とした。

となりに置いた鞄を上にのせた手できゅっと握り締め、あらたな埃達を泳がせた。
















<了>
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